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不安のときめき
鹿島とも子と言うとオウム真理教の広告塔としてすっかり有名になってしまったが、元々は日劇のトップダンサー。日劇を辞めた後僕のいた青山音楽事務所に所属した。
ハーフという事もあって掘りの深い顔、長い睫、ダイナミックな姿態を持った魅力的な子だった。
当時CBSソニーのSプロデュサーが金井克子らの西野バレーアーティストを起用して続々ヒットを飛ばしていて、大柄で見栄えがし踊れる大人の歌手が一種のブームになった。ともちゃんはぴったりの素材、僕らはSさんに彼女を売り込み彼もたいそう惚れ込んだ。
Sさんは郷ひろみ、山口百恵らを手掛けるナンバーワンプロデューサー、ともちゃんの天性の素質、知名度からいってヒット間違い無し、TVブッキングも順調にすすみ後は発売日を待つだけとなった。
発売日の一週間前、深夜僕は電話で事務所に呼び出された。ともちゃんに恋人がいる事が発覚、スクープ記事が写真つきで翌日発売の女性セブンに掲載される事が判ったのだ。
スキャンダルが発覚した場合、記事差し止めが間に合うタイミングであれば、僕らは全力であらゆるルートを使って潰しにかかる。(僕もフォーカスの記事を一本潰した経験がある)しかし今回、それは間に合わない。雑誌は明日書店に並ぶ。
我々はスクープをセブンに独占させる訳にはいかなかった。普段付き合いのある他の芸能記者の顔を潰す事になる。そこで急遽翌早朝から記者会見を開く事にしたのだ。その連絡にてんやわんやだったが、もう一つ大きな問題があった。
ともちゃん、妊娠3ヶ月という。引退をしたいと言い出した。これには我々真っ青になった。恋人スキャンダルだけならまだ乗り切れる。しかし妊娠、引退となるとこれはもう多方面を巻き込んでの大騒動だ。我々は朝まで説得したが彼女は折れなかった。そればかりか医者に安静を、安定するまで過激な運動は控えるようにと告げられたと言う。
前述の様に今回の曲は歌って踊れる彼女の為に練りに練った曲、当然激しい振り付けがある。「もう踊れない」泣いて彼女は我々に訴えた。
普通の芸能プロ(?)ならば許されない事だったが、青山音楽事務所は主に外国タレントを扱う善良な(?)紳士が集まったプロダクション。我々は彼女の人生選択を泣く泣く優先した。
翌日からのスケジュールはすべてキャンセル、代替えにダニエルビダル、シモンズ、ジョーンシェパードらをブッキング。CBSソニーには平身低頭平謝り。業界の笑い者となった我々と幻のヒット曲「不安のときめき」の返品の山を残してともちゃんはさっさと結婚してしまった。
僕は休みを返上して出社「頑張るからね」と言う彼女の為にこの曲のレッスンを付けて来た。あんなに張り切ってたのに、、、女は子供ができるところっと変わる。
その後オウム事件まで彼女の事は思い出さなかった。 |
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