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時は元禄十四年、花の大江戸八百八町の片隅に変人倶楽部と呼ばれる長屋があった。
十軒程が軒を並べる小さな長屋ではあったが、そこには広いお江戸を探しても滅多に会えない変人達が暮らしていた。
「て、てーへんだ、親分、てーへーんだ!」
「なんだよゴリ平、五月蝿いやつだな、またガタコが妊娠でもしたか」
「そ、そんなんじゃ無いですよ、一昨日から越後屋の馬鹿旦那、いや若旦那が行方不明になってるんですよ」
「越後屋の馬鹿っていゃー、あの太ったブー太郎か。あいつのこった、また女郎屋りえママのとこにでもシケ込んでるんだろ」
「違いますよ、マスター、いや、まゆげが鼻息で揺れてるぜ」
「マ、マスター」
「マスターじゃ無い、親分と呼べ」
「す、すいません、今大道芸人のハマの丞に聞いたんですけど、花魁ののりかが昨日から行方不明だとか」
「なんだい、また行方不明か」
「ゴリ平、またっていうと他にも」
「うん、越後屋のブー太郎と旅芸人おかめが」
ここは長屋の中程にある十手持ち、銭禿親分の家、駆け込んで来たのは子分のゴリ平とまゆ権造。親分にはもう一人まゆ権之助と言う子分がいる。
「ただいまー。あー面白かった」
「あねさん、真っ昼間からもうエスケープですか」
「うん。家にいても面白くないんだもん、吉次郎のとこへ行って来た」
「朝っぱらから出かけやがって、俺は腹へってんだ、なんか食わせろ」
「あたしお腹一杯、勝手に食べれば」
鬼の銭禿もオカミさんにはかなわない。
「親分、連続行方不明事件ですよ、これは。飯どころじゃない」
「権造、わかってるよ、しかし腹が減っては戦が出来ぬ、全日開店便利店にいってなんか買って来てくれ」
「親分、メシ食うならあいちゃん弁当でしょ、便利店のはまずい」
「そうか、あいちゃんちがあった」
「おこんにちは」
「なんでぃ、誰かと思ったら幇間のエイズローじゃないか」
「あら、ゴリ平なんでぃとは失礼ね。わたしタレ込みに来てあげたのよ」
たいこもちのエイズローは女好きの癖に何故か女言葉を使う。
「あー真っ昼間から気色悪いやつが来やがった」
「イヤーね、親分までそんな事言って。でも私、負けないわ。まっ、毛ないワ」
「なにばか言ってるんだ、それで何タレ込みに来た」
「ワタシ見たのよ、夕べ大川ばたから女の子が十人程後ろ手に縛られて船で連れて行かれるのを」
「な、なんだって後ろ手に縛られて!」
「そうなのよゴリちゃん、私吃驚しちゃったワ」
「それで番所には届けたのか」
「まだだワ、だから今親分のとこへ来たんじゃない」
「夕べ見たもんを今頃とどけてどうする。なんですぐ届けなかった」
「だってー、芸者の渚と一緒だったしぃ、それに私見ちゃったの、船の中にね、、」
エイズローは声を落として続けた。
「人買いの大足がいたのよ」
「大足?大足って『旅篭すきやき』のあのでかいのか」
「そう、そうなのよ、親分。もー吃驚しちゃって、ワタシ大足とは友達でしょ、まぁ人買いが彼の仕事だとしても、女の子縛って連れて行くなんて信じられないワ」
「うーん、やつの仕事は田舎へ行って貧しい百姓の子探して江戸で働き口を探してやる事だ。その口利き料で商売してるとはいえ、あこぎな奴じゃない。親にゃ銭がヘぇって、子にゃ仕事、おまけによく働く若い衆を紹介してもらって、商売人にも感謝されてるって話じゃないか、そんな乱暴な事やるはずがねえ」
「でしょー、だから下手に番所に届けるよりも親分に相談した方がいいと思って」
「おい、ゴリ平、すぐ旅篭すきやきへ行って大足がどうしてるか調べて来い。権造は、、そういやぁまゆ権之助はどうした」
「へェ、今女郎屋りえママのとこに聞き込みに行ってます」
「そうか、じゃおめーは取り敢えずエイズロー連れて大川ばたへ行け。現場を確認してあたりの聞き込みやって来い」
「えーっ、大川ばたへこれから行くの、嫌だワ。私疲れたワ。第一これから越後屋のブー太郎とあいちゃん弁当食べに行くのよ。毎週月曜日は二人で御飯食べる約束してるの。私あいちゃん大好きよ、可愛くて元気があって、うふ、おっぱいも大きいし、、ねぇ、親分はあいちゃんのどこが好き?、やっぱりおっぱい?それとも、、」
「あー、もうベラベラベラベラ五月蝿いやつだ。少しは、、」
「そうよね、男のお喋り見苦しいワ」
「バカ、おめーのことだ、あのな、ブー太郎、一昨日の夜から行方不明なんだよ」
「えっ!」
「おかめと浅草行くってでかけたまんまいなくなっちまった、そればかりか花魁ののりかも消えちまったんだ」
「そ、それは大変だワ、大足の件も関係あるのかしら」
「それをこれから調べるんだ、行ってくれるな?」
「ええ、解ったワ。権造、駕篭で行った方が早いワ。私が払うから駕篭かきのナカハラ呼んで」
「そりゃすまないな、おれたちには駕篭なんて使えない。さすが売れっ子の幇間だな、よっ、大統領!」
『ひゃっ、ほっ、ひゃっ、ほっ』
「エイちゃん、この駕篭屋さん変なかけ声だすね」
「それがいいのよ。ワタシナカハラの御贔屓筋、ね、ナカハラ」
「ひゃっ、ど、ども、ありがとござます。ひゃっ、ほっ、ひゃっ、ほっ」
「あ、このへんよ、この土手の上、アラ嫌だワ、ドテなんて言っちゃった。恥ずかしいワ、倒れちゃう。どてっ!」
「なにやってんですか、ナカハラさんこの辺で良いです」
「ひゃっ、ひゃい、ど、ども。すいません」
その頃スキヤキの聞き込みにやって来たゴリ平。
「な、何でい、大足の、おめーここにいやがったか」
「いやがったかって、ここは俺の仕事場だ、自分のところに居て何が悪い」
「い、いやー、ちょいと聞くけどおめーさん、夕べどこに居た」
「夕べ、、、夕べは権兵衛で湯豆腐食って、行き付けの飲屋でしこたま飲んだ」
「どこだ」
「『話簡単』って居酒屋だ」
「あー、あの不愛想なおやじのやってる店か。銭禿親分によく似てる、、」
「そうだ。俺は毎晩そこで飲んでる」
「『話簡単』の後は?」
「、、、、帰ったと思う。覚えてない」
「覚えてないって、おめーゆんべのことだよ」
「ゆんベの事か今朝の事か知らんが、俺は酒を飲むと全て忘れる」
「おい、おい、冗談言っちゃ−いけねーよ、どこへ行ったか、どうやって帰ったか位は覚えてるだろう」
「膳、膳。いや全然覚えてない」
「馬鹿野郎、都合が悪いからって嘘ついちゃいけねーよ。本当の事言いやがれ」
「嘘もなんも、俺は病気なんだ」
「病気?」
「ああ、酒性痴呆症といって普段はなんともないが、酒を飲むと全部忘れる。ひどい時は言葉も忘れて喋れなくなるんだ。嘘だというなら変人長屋の薮数先生に聞いてみろ」
「、、、ずいぶんと都合のいい病気だな。それならおめー今朝はどこで目が醒めた、忘れたとは言わせないぞ」
「自分の家だ。」
「目が醒めたら家に居た、、か。。なんか覚えてないかな、船に乗ったとか、、」
「船!そうだ、『話簡単』を出てふらふら歩いてたら、変なやつが近づいて来て『どうもすいません、旦那、いやー格好いいですね。一回お話したかったんです。スキヤキの大足さんですよね、酒と船が大好きな大足さん。有名ですよ、いい仕事なさってる。』ってやたらほめまくられた。」
「ほめまくられた!?そいつ小柄な奴じゃなかったかい」
「んん、、良く覚えてないが、、、大概の奴は俺より小柄だ」
「、、、そりゃそうだ。やたら愛想が良くぺこぺこし乍らほめまくった、、、」
「そうそう、そうだよ」
「そりゃ三下やくざのほめ殺しペエ助だ。でそれからどうした」
「、、、覚えてない。」
「どこかへ一緒に行ったんじゃないのか?」
「んん、、、自慢じゃないが覚えてない」
「ちぇっ、しょーがねーな、わかった、おめーがほんとに病気かどうか薮数先生に聞いてみよう。いいか、しばらく江戸を出るんじゃねえぞ」
「親分!てーへんだ、てーへんだ」
「なんだい、今度はまゆ権之助か。りえママんとこで何かわかったか」
「はぁ、はぁ(ばさばさ)」
「あーうっとおしい、権造も権之助もそのまゆげ何とかしたらどうだ」
「(ばさばさ)はぁはぁ、親分、まゆげどころの話じゃない、行方不明ののりかと身分は解らねーがもう二人、今しがたりえママのところに駕篭に乗せられ連れてこられた」
「なんだって!?のりかが連れてこられただと、一体どういうこった」
「と、とにかく一緒に来て下さい」
「ふーん、この三人か。よー、りえママどう言うこった、説明して貰おうか」
「どうもこうも、受け取り人払いで運ばれて来たんだよ。突っ返してやろうと思ったけど見ればうちののりかがいるじゃないか、事情聞くにもこうして眠ったまんま、仕方ないんで駕篭代払って引き取ったって訳さ」
「おめーあこぎな事して娘かっさらったんじゃねーだろーな」
「(ばしっ!)なんてー事言うんだこの禿、あたいがそんな女に見えるかい、喧嘩売ってんならキャッシュで買うよ!」
「い、いやそうおこんなよ、これもお勤めだ許してくれ。でこいつらはずっと眠ったままか」
「叩いても蹴っ飛ばしても起きやしない」
「親分、皆の背中に何か貼ってあります」
「権之助、剥がしてこっちへもってこい」
「何々、『返品書』返品?『バカチコ殿 以下の理由により返品致します。のりか:夜目遠目はいい女だが、昼間見て吃驚した。のりたま:文句は言うは飯は三人前喰うはで、元がとれない。あっこ姫:男はいらない。鮫金』うーん、これは人身売買だな、使い物にならんというんで返品して来た。」
「親分、鮫金ってあの鮫金ですか!?」
まゆ権之助が驚くのも無理はなかった。鮫金は無口で真面目な植木職人でとてもじゃないが人買い等するとは思えない。
「まさかな、しかしそうある名前でもないし、最近見かけない、独立したとも聞いたから仕事がうまく行かなくなって悪事に走ると言う事も考えられる」
「ちょっとあんた、こら、そこの禿げ、なんて事言うの、鮫金さんがそんな事するはず無いじゃない」
「オッ、目が醒めたか」
「目が醒めたかじゃないわよ、全く私の鮫金をそんな風に疑うなんて許さない」
「おめーは、、」
「のりたまよ」
「一体どうしたって言うんだ。何があった?」
「何があったかこっちが聞きたいわ。私はね鮫金の恋人、、、と勝手に思ってる少女。一昨日茶屋「尺八」のお桂さんのとこで団子食べてたら、「話簡単」で良く会う鍋猫が来て『鮫金が呼んでるよ』と言うからついて行ったの。そしたらいきなり頭の後ろを殴られて、じゅわー、しゅわしゅわ、という音が聞こえて気を失った、、、気付いたらどこかのお蔵に入れられていた。頭来たから大暴れしてやったら、、なんか飲まされて、、、今だった(鹿児島弁?)」
「誰か知ってる顔は見たか」
「ううん、三人位出入りしてたけど、暗かったし、、、」
「ひょえっ!」
「だ、誰だ変な声出すのは」
「ここどこ?」
「安心しな、おめーは返品された。」
「返品?!しどーい」
「名前は?」
「あっこだ、あーづがれだー。もーやだー」
「何だってこんな男の子迄」
「こらっ、そこのまゆげ、あたいは女だ」
「そういやー可愛い顔してる」
「良く言われる」(ばしっ!)
「おめーは何だってまた連れて行かれた」
「いっちゃんが、、、うちのお母さんだけど、いい働口がみつかったから面接に行けと言うんで一昨日の夜、大川ばたの料亭に行った。こんな時間に変だなって思ったけど行ったらスキヤキの大足さんが居て、、」
「なにっ!大足が!」
「うん、就職瓦版で見た顔だったよ。」
「で奴はなんと言った?」
「なーんにも、ただ口開けてぼーっと座ってた」
「ふーん、それで」
「スキヤキで働かせてくれるって、一緒に居た人が言ったよ」
「どんな奴だ」
「ちっこくて細い目をしてて、手擦り合わせ乍ら『イヤー、きれいな子だ、こんな可愛い子見た事無い、すいませんね、こんな夜遅く、でも会いたかった、君は評判通りの可愛いお姫さま』ってほめまくられた」
「ほめ殺しペエ助だ、最近大人しくしてると思ってたらまたぞろ、、、」
「親分、三人をここ迄連れて来た駕篭屋がみつかりました。」
「おう、なんだ、トダカッチじゃねーか」
「どーも親分さん、御無沙汰してます」
「御無沙汰じゃねーよ、一体誰に頼まれてここ迄運んで来たんだ」
「へェ、浜松町を流してたら呼び止められまして、三人運んで欲しいから仲間を呼べって言うんですよ。最近不景気でしょ、皆暇こいて困ってる、よしきたって言うんで、浜離宮のそばで客待ちしてるいとーさんと、子供が出来て金がいるってぼやいてるまるやま、、」
「うるせー、ベラベラベラベラ余計な事ばっかり喋るんじゃねー、聞かれた事だけ答えろ。誰に頼まれた」
「知らない人です」
「なんだよ、全く。役にたたねーやろーだ。で、なんて言われた?」
「大川ばたに黄色い手拭を立てた家がある、そこ迄運べと。」
「ふーん、で行ったのか?」
「行きました。行ったはいいけどその家の前には人相の悪いのがたむろしていて、、、恐くなっちまった。このままどっかへおいて行こうとも思ったけど、それじゃ金にならない、見ればのりかも乗っていた、よし、りえママんとこ届けて金貰おう、それにりえママならこいつら悪くする事もなかろうと、、、」
「こらっ!トダカッチ、てめーなんて野郎だ、今迄可愛がってやったのに、わたし相手に金もうけかい!」
「す、すいません、つい出来心で嘘ついた、、」
「馬鹿野郎、そこへ座れ」
「まぁまぁ、りえママ落ち着いて、話聞くのが先決だ。後で煮るなり焼くなり勝手にしてくれ、でトダカッチ、おめーに声かけたやつらの顔、覚えているかい?」
「へ、へい、なんとなく」
「よし、まゆ権之助、似顔絵書きの牡軽ひろりんを呼んで手配書作らせろ」
「ヘイ、合点だ」
「のりかはまだ目が覚めねーようだな、年寄りには薬が良く効くようだ」
「銭禿の親分さん、あちきを年寄りとはあんまりな」
「オウ、のりか、気がついたか」
「そりゃあちきは確かにこの子等より年上、だからと言ってそれを年寄り呼ばわりは御無体というもの。あちき脱いだら凄いのでありんす」
「なーにをいってんだ、大丈夫か」
「踊りで鍛えたこの身体、これしきの事では参りませぬ」
「それなら良かった、で、お前いつどこで誰にかどわかされた?」
「あの日あちきは大川ばたの料亭『そーろう』のお座敷に呼ばれたでありんす」
「料亭『早漏』って言ったらあっこが呼ばれたとこだよ」
「ばか、『早漏』じゃない、『そーろう』だよ、あれは確か黒切札忍様お声掛かりのお座敷だったよねぇ」とりえママ。
「黒切札忍!代官じゃねーか、お代官様とあろうお方がなんだってまた大川ばたなんてとこに、、料亭だったら麹町とか赤坂が相場ってもんだ」
「親分、『そーろう』といやぁ越後屋ぶー太郎が仲間何人かと銭出し合って始めた料亭ですよ」
「なんだって!ぶー太郎が!?」
「へぇ、確か幇間エイズローや髪結いの亭主びしばしなんかも仲間です」
「まゆ権之助、おめーなんだってそんな事知ってんだ?」
「あっしも一口、、、いや、御用聞きやってれば色んな話が耳にヘーってきやす」
「、、、なんかおかしいな。お前アルバイトやってんじゃねーだろうな、、まっいいか。それでのりか、お座敷呼ばれてどうした?」
「お座敷に上がるとお代官様、駄菓子同心のムコ殿が並んで座っておじゃった」
「な、なに、ムコ殿が、、、うーん、益々怪しい」
「もう一人、お二人の前に何やら黒頭巾のようなものを被ったおかたが、お酌をしたりし乍ら接待なさっていたでありんす」
「黒頭巾!?」
「へぇ、『わしは鞍馬てんぶーだ、わっはっはっ』と大きな身体を揺すって笑っていたでありんす」
「鞍馬てんぶー!また訳の解らんやつが出て来たなぁ。しかし少しづつ事件が繋がって来た。まゆ権之助、俺は一足先に帰ってゴリ平、まゆ権造と事件を整理してみる。おめーは手配書を作ったら戻って来い」
「へい、で、この娘等はどうします?」
「住所を聞いて帰してやれ、おいトダカッチ、罪滅ぼしだ、おめー二人を家迄送ってやれ、銭とんじゃねえぞ」
長屋「変人倶楽部」銭禿親分の家
「まゆ権造、お前の方はどんな具合だ?」
「へぇ、エイズローが船を見た場所っていうのは昼間でもあたりに殆ど人陰の無い寂しいとこで、、、建物といったら昔の舟倉庫が二軒、舟倉庫を改装して作った料亭『そーろう』しかありません」
「ふーん、やっぱりな、『そーろう』の近くか。。使ってない古い倉庫にゃ、なんか立ってなかったか」
「そういや黄色い手拭が風になびいてやした」
「よしよし、そうこなっくちゃナ。ちょっとここで話を整理しよう。書いてる方が訳解らん様になってんだから、読んでる方はもっとこんがらがってるにちげえねぇ」
「?なんの話です、親分」
「毎日電話を覗き込み乍ら笑ってるやつらが沢山いるって事よ、ゴリ平」
「?????」
「いいか、まず越後屋ぶー太郎とおかめがいなくなった。翌日のりかとあっこは料亭『そーろう』に呼ばれその後どこかへ連れて行かれた。部屋は違うんだろうがほぼ同じ時間に二人は『そーろう』にいた。
のりかが見た者は代官の黒切札忍、へっぽこ同心のムコ殿、そして謎の黒頭巾鞍馬てんぶー。あっこが見た者はちんぴらのほめ殺しペエ助と大足。この日夕方にはのりたまが茶屋『尺八』から鍋猫に騙されて連れ出されてる。そしてこの夜遅く幇間エイズローが『そーろう』近くの岸から出て行く船を目撃した。
そこには大足と十人程の女が乗っていた。。大足はその夜の事を全く覚えていないという」
「親分、あっしは大川ばたの現場を見て不思議でならねーことがあるんですが」
「なんでぇ、権造」
「夜遅くにあんな場所にどうしてエイズローがいたかってことです」
「やっぁ、何ていってんだ」
「『風が気持ち良いから散歩してたワ』って。それまでどこにいたんだって聞いたら『浅草で飲んでた、ナカハラを呼んでここ迄来たワ』」
「ナカハラにウラは取ったか?」
「へぇ、しかし何を聞いても『ひゃっ、ひゃっ』と言うだけで、、」
「よし、明日エイズローと渚を呼んでとっちめてやろう。なんか隠してるな。続きだ、どこかへ連れて行かれた女達は『鮫金』によって『バカチコ』に返品された。返品先は大川ばたの黄色い手拭の家、、と言ったが例の舟倉庫でまちがいないだろう。女を乗せたトダカッチは大川迄来たものの恐くなってりえママンとこへ女を運んで来た」
「そこでさぁ、親分。鮫金って署名、本物でしょうか。それとバカチコってのは、、」
「権造、あの署名は本物だな。俺はあいつからメール、いや手紙をよく貰ったが筆跡はまちがいなく奴のもんだ、バカチコってのは誰だか見当つかねぇ」
「鮫金の足取り追いましょう、浜松町あたりにいる事は間違いないようだし」
「いや、あいつはもう少し泳がせとけ、逃げたとしても足は遅い。それより今迄の話で気になる事はないか」
「親分、あっしは心配でなんねい」
「なんでぃ、ゴリ平」
「この話本当にまとまるんですかぃ?親分のことだ、また『突然乍ら終了させて頂きます』なんてぇ事にはなりゃしないかと、、、(ばしっ!)」
「ばかやろう、下らねぇ事言うな。おめーは俺の文学的才能と持続力を知らねーな。年末の『変人倶楽部仮装宴会』は『二百年前の、、』でやるんだ。それまでこれを引っ張る。今、中だるみだが、秋口にはおめー、天文館中の話題になってるよ」
「天文館ってなんですか」
「いいんだ権造、余計な事は考えず役に没頭しろ。」
日本橋の蕎麦屋『こうもんちゃん』、へっぽこ同心ムコ殿と髪結いの亭主びしばしが額を寄せ合い乍ら一杯のかけそばを食べている。
「全くあの代官、『えっちかっぷ、えっちかっぷ』って言いやがってそんじょそこらの女じゃ満足しやがらねえ」
「だから言ったじゃない、女で代官たぶらかそうなんて無理だって。俺は身体も弱いしもう降りたい」
「びしばし、今更そんな泣き事言うんじゃねえよ。黒切札様を何とかたらしこんで、奴の夢を実現しなくっちゃ。俺だって嫁と姑に嫌みいわれ乍らこうやって時間作ってるんだ、、」
「全く、ダイの大人が二人揃って一杯のそばしか食えねーとは情けない。ほら、替え玉くれてやるよ」
「かたじけない、こうもんちゃん。なんせ俺は婿養子、こいつは髪結いの亭主でかぁちゃんに頭が上がらん。小遣いもスズメの涙だ。この一杯のかけそばが有り難い、、およよ、、、」
「おいおい、そば位で泣くなよ。同じ『そーろう』仲間だろうが。それよりどうしてエイズローは町方なんかに駆け込んで、俺達裏切るような事したんだ」
「エイズローは、バカチコが集めた女を横流ししたりして、暴走しはじめたんで恐くなったんだよ。俺も恐い。もう止めようよ」
「もう後にはひけねぇ。それに黒切札様さえ抱き込んだらおとがめも無かろう。うまくいったら俺達の名は歴史に残る。まずはバカチコとっ掴まえてバカな事を止めさせなきゃいかん」
「バカチコの居所はわかってるのか」
「ああ、鍋猫威したらすぐ吐いた。今泥ん波が見張ってる。」
「奴は?」
「あいつは発明家平賀源内の一番弟子、わたしげんなりの所へ行ってる筈だ。なんでもエレキテルちゅうもんを使った「電子密書」をげんなりが発明したらしい。これを使うと離れた相手に瞬時に密書が送れるらしい。」
「わたしげんなりか、、相当な変わりもんだろ。すんなりと協力してくれるかな」
「こうもんちゃん、あんたに変わりもんと言われたらお終いだ。理屈っぽいけど話せば解る奴、きっとうまく行くさ」
わたしげんなりの家
「この通りでござる。わたしげんなり殿、何とぞお力をおかし下さい」
「まぁ、まぁ鞍馬てんぶー殿、そう頭を下げられても、、正体はあかせない、訳は言えない、で力を貸せとおっしゃってもな。わたしは発明家、発明品を使って頂けるのは嬉しい事だが、科学の力は恐ろしい。使い方次第でこの世を天国にも地獄にもする。素顔を明かし訳を聞かずばわたしのエレキテルをお渡しする事は出来ぬ」
「この鞍馬てんぶーがこれ程頭を下げても、これ程金を積んでもダメとおっしゃるか」
「ダメなものはダメ、でござる」
「あいわかった。さればまずこの頭巾を取ろう」鞍馬てんぶーは頭巾をはずした。
「あー、あちー、暑かった。いやね、私もこんなもんかぶるの嫌だったの。暑苦しいでしょ、それに私の美しい素顔が隠れちゃう。うふ、私越後屋ぶーたろう。略してHぶーよ。よ・ろ・ぴ・く」
「なんじゃー!お前は、頭巾取るといきなりキャラ変わるやんけ」
「あら、げんなりさんも変わったわ。そう、私多重人格なの。多重債務じゃないわよ」
「い、いや失礼つかまつった。で、何故越後屋さんがエレキテルを必要とされているのじゃ」
「うふふ、話せば長くなるけど、、話さないと解らないから話しちゃう。実は越後屋ぶーたろーも世間を欺く仮の姿。ある時は鞍馬てんぶー、またある時は越後屋ぶーたろー、そしてその正体は、、」
「あー、もう早く話せ。俺は、いや拙者は気が短いのだ」
「首も短いわ」
「放っとけー!でその正体は、」
「その正体は、三千年、いや二千八百年の歴史を持つ国、清国の星『周山海』私、中国人あるよ。」
「わー止めてくれ、これ以上話をややこしくするなー!」
バカチコの隠れ家。
「バカチコ!ちょっと刃物をちらつかされた位でベラベラ喋りやがって、この腰抜け猫。全く援交ばっかりにうつつ抜かして!(ぼかっ!)」
「にゃん!」
「にゃんじゃねぇ。ここはヤバイ、引き上げるぞ、おめーら外で見張ってる若造、追っ払って来い!」
「バカチコ殿、拙者が行こうか」瓢箪徳利をあおり乍ら一人の素浪人が立ち上がった。
「先生、めっそうも無い。あんなちんぴら追い払うのに『むっつりけんぞう』と世におそれられるお方の手をお借りするまでも有りません。鍋猫、ペエ助、お前等で何とかするんだ」
「へい」「にゃん」
隠れ家を見張る泥ん波、そこへペエ助がもみ手をし乍ら近づいて来た。
「泥ん波のお兄さん、いつ見ても良い男ですね。ね、鍋猫の、こんな様子の良い人は滅多にお目にかからないよ」
「そうだにゃん。羨ましいにゃん。俺がこんな良い男だったら銭使って援交しなくても済むにゃん」
「女にもてて困るでしょ、よっ!この色男」
「イ、 イヤーそれほどでも、、」
「こんな所で何してんです、ちょっと付合って下さいよ、この先に良い娘がいる居酒屋が有るんですよ。何度通っても俺達にゃ見向きもしない、頼んます、一緒に行って下さいよ」
「そう言われても、、ここを離れる訳には行かないんですよ」
「ちょっとですよ、ほんのちょっと、あの子見て損は無いと思うけどな、千石小町のゆかりん、良い女ですよ。なんせあの子一目見たさに昼間から行列が出来るんですよ、その居酒屋。おい、鍋猫、どこ行くんだ?」
「そんな別嬪さんなら、おいらが行くにゃん」(ぼかっ!)
「あほ、お前一人で行ってどうする、さぁ、泥ん波さん、行きましょうよ。あんただったらあの子も振り向くよ!」
「そ、そうかな」
「そうですよ、あんた見てあの子の頬がぽっと染まって、ねぇ、わたし今夜は非番なの、どっか連れてってぇ、なんて甘えた声出してさ、、モー憎いね、この幸せもの!」
「行きましょう、どっちですか、さぁ、早く!」
四ッ谷のお堀端、暗い土手の上に二人の人陰。
「で、鮫金、今迄何人くらい連れて行かれたんだ」
「この三日で十二、三人か。俺のとこへ連れてこられたのは二十人位だが、全部は助けられなかった。夜中にそっと外へ出したり、返品するふりして帰したりしたが、、」
「そこだ、おめーなんだってあの三人、バカチコんとこへ送り返した」
「一人でも多く助けようと思ったから、返品って言う手を考えた。送り先がよそじゃ仲間に怪しまれる、まぁ賭だな。それにしても乗せたのがトダカッチとは驚いた」
「そうさなぁ、全く。大江戸といっても狭いもんだ。おう、そうだ、かどわかされた女の中におかめはいたか?」
「おかめ?気が付かなかったな。闇に紛れて逃がしたりしたから、居たかも知れんが」
「大足はやはり何も知らない様か?」
「ああ、こっちに着いた時にゃただのでくの坊だ。口もきけずにぼーっと座ってたよ。ありゃ仲間じゃねーな」
「ふーん。大足は人集めに利用されているだけか。お前の所に集められた女達は一体どこへ連れていかれてるんだろうな」
「船の帰ってくる時間からすればそう遠くは無いはず、下総か、いや江戸湾に浮かぶ島かもしれない。」
「どうして下総ではないと?」
「下総ではわざわざ品川、浜松町迄連れてくる必要は無い。大川下ってそのまま下総に抜けられる」
「成る程、、昔の鮫金は頭が良かったんだ」
「なに?」
「い、いやこちらの話。島というと、、」
「江戸湾には無人島を入れると三十を越える島が有る。見当つかねえな」
「ふむ。もう少しバカチコの出方を見るか」
「奴は下っ端、親玉の首根っこ掴む迄もう少し泳がしておくしかねぇだろう」
「た、たすけてくれー、誰か、誰かいないか、助けてくれー」
「なんだあの声は」
「見附の方だ、行ってみる。おめーは人目につくとまずい、赤坂抜けてけえれ」
「おう!」
四谷見附の外堀、その中で溺れている若い男を野次馬達が覗き込んでいる。
「大丈夫か、おい、生きてるか!?」
「た、たすけて!」
「おい、若いの!慌てるな、そこで立ってみろ!」
野次馬の中から一人の女が前に出て叫んだ。
「立て!立つんだよ」
「た、たす、、、へ?」
水の中で手をばたつかせていた男はにわかに我に帰った。男が立ち上がってみると、、なんと水面は男の腹のあたり、相当浅い。
「はははは、ここんとこ雨が降らないから水が少ないのさ、慌て者!」
「へ、へそうか、、あっ、いて!イテテ!」
突然男が首を押さえてしゃがみ込んだ。再び水の中!
「お、おい、どうした」
若い女はお堀の中に飛び入ると男を抱えて引きずり出した。小さな身体からは想像出来ない力だ。
「おい、どうした、大丈夫?」
「おう、どきなどきな、ちょっと俺を通せ。何ごとだ、一体」
「あれ!?おまえさんは、、」
「なんでぇ、筋肉ちぶさじゃねぇか」
「ちぶさはよしとくれ、みかっていう立派な名前があるんだ」
「いたたた、、」若い男、泥ん波は首を押さえて呻いている。相当苦しそうだ。
「一体どうしたんだ、おめー」
「イテテ、きれいなお姉さんにお酌をされて、ついつい飲み過ぎ酔っぱらいました。酔った勢いで調子に乗ってお堀に飛び込んだ、、、イテテ、、」
「飛び込んだはいいが水が少なくて首を折ったか!?情けねーやつ、挙げ句に女に助けられたって訳か、、おい筋肉ちぶさ!」
「みかだよみか!」
「お前の力ならこんな蚊とんぼみたいな若造、担ぐのわけなしだろう、変人長屋の薮数先生とこまで運んでやんな」
「おう、おやすい御用だ」
「すいません、こんな馬鹿なあっしに御親切に、、みかさんと、、あなた様は、、せめてお名前を」
「俺か、俺は『話簡単』っていう居酒屋やってるケチな野郎だ。さぁ、早く行け、ちぶさ、気をつけてな」
「おう、じゃ、あっきらちゃん、またねー」
みかは泥ん波を軽々と肩に担ぎ上げると、市ヶ谷方面へ走り去った。
わたしげんなりの庵
「あんたが越後屋、鞍馬てんぶーそして実は中国人周山海なのはわかった。しかし何故そう身分をお隠しになる」
「ちゅーこくじん、わかったら大変よ。幕府鎖国中、私追放されることあるよ」
「ち、ちょっとあんた、流暢な日本語を喋れるんだから、普通に喋りなさいよ。聞きづらくていけない」
「周山海名乗ると血が騒ぐ。喋ると中国語なるあるよ」
「どこが中国語じゃー。妙な日本語やんけ」
「げんなりさんも興奮すると言葉変あるよ。わかった、越後屋に戻るあるよ。ほい!
越後屋でござんすよ。実は私の曾おじいちゃんは海賊、ある日嵐にあって日本に流れ着いたのざんす。流れ着いたのが越後の国、それで越後屋を名乗ったのよ。親切なNGOに助けられて日本語勉強し乍ら江戸にやって来た。日本人になりすましそれはもう苦労の連続、丁稚奉公からはじめて一生懸命働いたワ。でぶとか目が細いとか虐められても耐えて耐えて耐え忍んだワ。そりゃーもう『おしんかお陳か』と言うくらい耐えた」
「あんた時々解らん事を言う」
「いいの、読んでる人は解るから。耐えて働いて、私で三代目、今や越後屋と言えば江戸でも指折りの大だな。」
「そんな大だなの若だんなが何故に鞍馬てんぶーに身をやつす」
越後屋ぶー太郎、そばにあった頭巾をやおら被ると
「かたじけない。良くぞ聞いて頂いた。私が正義の味方鞍馬てんぶーを名乗るのは、、」
「あんた正義の味方だったんか」
「そう正義の味方、性技ではないぞ。実は今、日本に三千人を超える中国人がいる」
「さ、三千人!?」
「左様でござる。長崎出島に三百人、これらは通訳として和蘭(オランダ)人に連れてこられた者、幕府が正式に滞在を認めているのはこの者達のみ、他は皆不法滞在者でござる。で最近この中に過激な組織が入り込んで、不穏な動きを始めている、、
瓶 裸伝と『或怪蛇』一味が開国と市民権を求めて同時多発暴動、暗殺を企てているのじゃ。勿論拙者も幕府の鎖国政策に苦しむ同胞を救いたい。しかし暴力はいかん。幕府の中にも開国論者はおる、そのもの達に近づいて出島のような同胞達の解放区、名付けて『中華街』を作るのが拙者の夢」
「びんらでんとあるかいだ!わしも聞いた事がある。自らの命を顧みず目的を遂行すると言う暗黒組織」
「左様、しかし奴等と言え暴力をふるい人の命を取る事が目的ではない、我ら同胞が自由に暮らせる様になればその鉾先を収めるであろう。幕府に働きかけ一刻も早く『中華街』を作らねばならぬ。そこでわしが目をつけたのがお代官、黒切札忍殿でござる。黒切札殿はかって出島奉行をお勤めになった。その時巨乳和蘭婦人と出逢ってからと言うもの『こんなもんが毎日拝めるのなら、即刻開国すべし』と開国派の急先鋒となったのじゃ。仲間の同心、ムコ殿を通じてお代官様に接近、連夜御接待申し上げ乍ら、我らの計画をお話している」
「それであればわざわざ鞍馬てんぶーを名乗らずともよさそうなもの」
「実はお代官様の御希望で、そばにお仕えする娘を捜しておった。ほめ殺し@ペエ助と鍋猫と言うちんぴらに集めさせていたのだが、こいつらとんでもない奴等でお眼鏡にかなわぬ娘達を、やくざ者のバカチコに横流しをしたのじゃ。そんなものに関わっていたと判れば越後屋のノレンが穢れる、そこで自らも姿をくらまし、鞍馬てんぶーとなり活動を続けているのじゃ」
「むむ、されば最近お江戸を賑わしているかどわかし事件はお主らの仕業だったのか」
「い、いや、我らは娘等に仕事の世話をしようと、、」
「しかし結果、何人もが行方不明になっておる」
「そ、それはバカチコの仕業」
「通じぬ!左様に不逞の輩を使ったお主の罪は免れぬ」
「げ、げんなり殿!大事の前の小事、お判り下され」
「いかなる理由があろうとも、このげんなり、悪事は捨ておけん。なに、すべてを明かし捜査に協力すればお咎めも軽かろう。ささ、一緒に銭禿親分の所へ行こう」
あいちゃん弁当、びしばしとムコ殿が茶を啜っている。そこへ駆け込むエイズロー。
「ひゃぁ、ひゃぁ、やっぱりここ。又ただでお茶飲ませてもらってるの?ごめんねあいちゃん、この人達お金持たせて貰えないから」
「いいのよ、最近かどわかし事件が多いでしょ、一人でいるより安心だもの」
「どきっ!」胸を押さえるびしばし。
「どうしたの!?」
「い、いや、あいちゃん、こいつは身体が弱い、また心臓の発作だろう。それより息弾ませてどうした」
「ぶーたろうが銭禿の所に」
「どきっ!どきっ」ばたん。びしばしが倒れた。
「キャー、びしばしさん!」
「大丈夫よ、あいちゃん、よく気を失うの、こいつ。運ぶから奥で休ませてやって」
店を出たエイズローとムコ殿は変人長屋へと向かう。
「銭禿に呼ばれて家の前まで行ったら、ぶーたろうの声が聞こえて来たのよ。『何卒御寛大なる御処置を、、』なんて言ってたワ」
「ふーむ、早々に音をあげたのだろうか。それにしてもげんなりの所に行った奴が何故銭禿の家に、、」
「わたしげんなりに説得されたのよ、きっと。口でげんなりに勝てる人はいないワ」
「そうさなぁ、あいつは寺子屋の後輩だが拙者も苦手じゃ」
「では始めから女をかどわかす気はなく、就職口を捜すかそのまま家に帰してやるつもりだった、と言うんだな」
「左様、拙者の目的はお代官様に取り入る事、女をどうのこうのする等とは考えてもおらぬかった」
「鍋猫とほめ殺しペエ助が勝手にやった事、と言う訳か」
「左様でござる。拙者に罪はない」
「てやんでー、ばか野郎!その頭巾脱ぎやがれ」
時ならぬ銭禿の剣幕におずおずと頭巾を取る鞍馬てんぶー、いや越後屋。
「てめー、えらっそうな事言うんじゃねー、素顔で出来ねー事をしておいて、罪はないだと!ふざけんじゃねー!」
「アラ、嫌だ、銭禿の旦那、そんなマジになって怒っちゃって、同じハゲ仲間でしょ」
「ば、ばか野郎、急にキャラ変えんじゃねーよ」
「だって、親分が頭巾脱げって言ったんじゃない。素に戻っただけ」
「鍋猫だのペエ助だの、せこいちんぴら使ったら後がどうなるか分りそうなものじゃねーか、天下の越後屋ともあろうものが、なんて間抜けな事しでかした」
「、、、」
「おい、まゆ権造、権之助、ムコ殿をここへ引っ張って来い!」
「それには及ばぬ」
「おっ、これはムコ殿」
「銭禿の、俺がついていながら悪かった」
「ムコ殿、悪かったじゃ済まねーですよ!!十手を預かる身でなんでこんな!、、」
「まぁ落ち着いて、銭禿げの、余り興奮するとまた禿げるワ」
「エイズロー、てめーは黙ってな。一刻も早く代官に開国推進の上申書をあげさせる為には他に方法がなかった。」
「お代官様が上申したとして、即刻開国なんて事にはならねーと思うんですが」
「それはそうじゃ、しかし周山海が動いて開国への動きが始まったとなれば、瓶裸伝の動きをとめる事ができる。
中国人にとって周山海と瓶裸伝は左右両極に立つ英雄、中華街設立は共通の目的、
平和的に勝ち取るか戦って勝ち取るか、民衆がどちらに味方するか明白であろう。拙者は暴動が起きるのを防ぎたかった」
「ムコ殿、それだけの理由で越後屋に加担なすったんですか。銭禿の目は節穴じゃーござんせんぜ」
「い、いや、その、、あの、ぶーたろうが『中華街が出来たら中で駄菓子屋を開かせてやる』って言うもんだから、、財産目当てに養子になったはいいが、いざ入れば台所は火の車、かぁちゃんはきついし、姑もうるさい、俺は生きていく気力を無くした。そんな時ぶーたろうからの話、十手返上してでも乗りたかった、、」
「そんな事じゃねーかと思った、、、げんなりさんどうしようかいな」
「まぁ動機は大いに同情出来るし、本当に悪いのはバカチコ一味。」
「そうさなぁ、しょっぴくにもしょっぴく先の同心様がここにいらっしゃる」
「面目ない、、、」
「おい、越後屋」
「へ、へい」
「話はわかった。今回は見のがしてやる。そのかわりバカチコ共を一網打尽にする。力を貸せ」
「へ、へい、有難うございます。さすが大江戸一番、きっぷのいい親分さんで、、お役に立つのならこの越後屋、一命親分に預けるでござんす」
「ちぇっ、調子のいい野郎だ」
「ちょっと待った親分、やい越後屋、てめーおかめをどこへやった」
ゴリ平が越後屋に飛びかかると馬乗りなった。
「お、おい待てゴリ平、こら、落ち着け」
「これが落ち着いていられるかってんだ、おめーがおかめを連れ出した事は判ってるんだ。さぁ、吐け!」
「はげ!?まぁ、失礼だワ」
「エイズロー、てめーはすっ込んでろ!」
ゴリ平に突き飛ばされエイズローが吹っ飛んだ。
「コラ!ゴリ平、落ち着けってんだ。おいまゆ権造、バナナを持って来い、バナナを」
「へい!合点だ」
ゴリ平、肩で息をし乍らバナナを貪り食っている。
「興奮すると手がつけられねーな。しかしゴリ平、おめーはおかめの事となるとムキになる。おめーらなんかあるんじゃねーか」
「hぁかをいっちゃいけねー、むしゃむしゃ、ほれにはお虎というふぉれたふぉんながいる、むしゃむしゃ」
「喰い乍ら喋るな、そうよなー、おめーとお虎はもう下はんしんの中」
「親分、そんな事はどーでも良いじゃねえですかい、それよりおかめの行方は、、」
「おうそうだった権之助、で、越後屋、おかめはどうした」
「エーッ!おかめ、帰ってないの!?」
「けえってねーよ!おめえ知らねーのか?」
「おかめとは豚マン食べて浅草で別れたざんす」
「じゃぁ、浅草行くと言ったのは本当だったのか」
「しばらく身を隠すつもりだったから美味しいもの食べたかったの、それでおかめ誘って浅草へ、、雷門の前で別れて、あたいはそれから薮行ってそば食べた」
「良く喰う野郎だ、それでおかめは、、」
「折角浅草に出たんだから落語聞いてくと、、」
「浅草で落語って言うと末広か、権造、権之助、てめーら浅草行ってウラ取って来い!」
二人揃って「へーい、合点だ!」「ザピーナッツか!?」
「さて越後屋、おめえにはたっぷりと協力してもらうぜ」
「へぇ、そーろう仲間こぞって、、」
「銭禿の、俺は罪滅ぼしに正面きって黒切札様にお願いして、越後屋の話を伝えてみるよ。御不興を買うかもしれんが友情の為だ、やってみる」
「およよよ、、ムコ殿、嬉しいね、越後屋そなたの言葉一生忘れん」
「中華街の中の駄菓子屋も忘れんでくれ」
「もーう、折角感動してるのに!」
「いいか越後屋、今夜エイズロー、びしばし連れて変人長屋の裏通りにある居酒屋『話簡単』に行け。」
「『話簡単』?」
「変な奴が一杯集まる居酒屋よ、聞いた事あるワ」
「そこへ行ってどうすりゃいいんですか。親分も来るでござんすか?」
「いや、俺はちょっと都合があって行けねぇ。まぁ行けば判るさ、いいか、必ず顔を出せよ」
大江戸を揺るがすかどわかし事件、越後屋一味の仕業と思われたが事件は意外な展開を見せた。果してバカチコ一味は何を目論むのか、その背後に潜むものは!?瓶裸伝と『或怪蛇』の動きを周山海は止める事ができるのか!?乞う御期待!
第一部 完
花の元禄馬鹿物語り/弐百年前の隠れ酒場 第壱部に登場した皆さん/登場順
銭禿親分、岡っ引き@ゴリ平、?@ガタコ、越後屋@ぶーたろう(鞍馬てんぶー、周山海)、女郎屋@りえママ、座長@たかいち、旅芸人@おかめ、岡っ引き@まゆ権造、大道芸人@ハマの丞、花魁@のりか、岡っ引き@権之助、えすけーぷ@おかみさん、居酒屋@吉次郎、弁当@あいちゃん、幇間@えいずろー、芸者@渚、酒性痴呆症@大足、駕篭かき@ナカハラ、おやじ@話簡単、ほめ殺し@ペエ助、名医@薮数、ヤクザ@バカチコ、町娘@のりたま、返品@あっこ姫、かどわかし@鮫金、尺八@お桂、ちんぴら@鍋猫、お気軽かぁちゃん@いっちゃん、駕篭かき@トダカッチ、似顔絵書き@牡軽、代官@黒切札忍、髪結いの亭主@びしばし、へっぽこ同心@ムコ殿、そば屋@こうもんちゃん、わたし@げんなり、素浪人@けんぞー、首折れ@泥ん波、女給@ゆかりん、筋肉ちぶさ@みか
瓶裸伝と或怪蛇?
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