「権之助、ゴリ平とムコ殿の事、何かつかめたか」
「いや親分、二日経った今でも姿はおろか噂を聞いた人もいません」
「う〜ん、しんぺぇだな。奴等がいた祭りの現場で一つ目の凧が五重塔に突っ込んで大騒ぎになり、二つ目の凧が突っ込んで来て塔は全壊したんだったな」
変人長屋、銭禿の家。銭禿、権之助、おかみさんがしんみりと話し込んでいる。
「ゴリ平、あんな奴だったけど死んだとなったらなんかさみしいねぇ」
「お、おかみさん、まだ死んだって決まった訳じゃありませんよ」
「て、てーへんだ、てーへんだ、親分、てーへんだ!」
「なんでぃ騒々しい、権造!、おめーはなんだっていつもそううるせい、、、」
「ゴ、ゴリ平が、、」
「やっぱり死んだの、可哀想に。。あんた、すぐ御葬式の用意を、、」
「ち、違いますよ、おかみさん!生きてたんですよ。そう!ムコ殿も」
「何!生きてた。そうか、そりゃ良かった!」
「なーんだ、生きてたの。久しぶりに喪服が着られると思ったのに、、」
「何言ってんだよ。それで権造二人は今どこに」
「へぇ、雷門近くの満照寺境内に収容されてるそうです。
祭りで知り合ったしゅんさんってー方が番所に知らせに来てくれたんですよ。何でも二人は一度目の激突で瓦礫の下になった人達を助けようと現場に戻ったところ、二度目の激突にやられっちまって自分達も下敷きになっちまったそうです。ゴリ平の上に大きな柱が落ちて来たらしいんですが、持ち前の石頭のおかげで助かった、ムコ殿はそのでかい頭の陰にいて直撃を逃れたってー訳です」
「そうかい、じゃぁ権造、権之助、おめーら念のため薮数先生連れて満照寺へ行ってくれ。話が聞けそうだったら連れて帰ってくれよ」
「へーい、合点だ!」
「まいどーっ!」
「おう、みかじゃねーか。随分とでけぇ袋ぶらさげてどうした」
「禿、いや銭禿、あちきはこれから鉄仮面と逢うんだ。一緒に来とくれ」
「な、なんだって!て、鉄仮面てーと、筆頭家老の鉄仮面@義務列島か」
「そうだよ、さぁ、行くよ!」
「ちょ、ちょっと待て。鉄仮面の弱味を探れとは言ったが、それまでだ。逢わせろとは言ってねぇ」
「何を悠長な事言ってんだろうね、このおやじは。越後屋が心配してた同時多発暴動が起きたんだよ、鎖国開国論争や誘拐だとか台場建設疑惑とか言ってる場合じゃない。
皆で一早く力合わせて或怪蛇と戦わなくちゃ。鉄仮面の弱味はこの袋に入ってる。今なら何でも言う事聞くよ。さぁ、早く行こうぜ」
「みか、おめーいつからそんな立派な事言う様になったんだ。。わかった、すぐ行こう。それにしても鉄仮面の弱味ってやつぁ、なんなんだ。何がヘぇってんだ、その袋」
「鉄仮面が命より大切にしてるもの、猫の『そにぃ』だよ」
「ねこーっ?!そんなもんで言いなりになるのか?」
「猫がいなくなってお屋敷はてんやわんやの大騒ぎ。『猫は預かった、返して欲しくば一人で赤坂溜池に来い。人の気配が他にしたらその場でそにぃを三味線にするから』って書いてやったよ」

「おめーどうやって警備厳重なお屋敷から猫を連れ出したんだ」
「鍋猫に呼ばせた。」
「鍋猫ってあのちんぴらの、、」
「そうだよ。あいつは猫語を話す。メス猫の声で誘惑させたらすぐに飛び出して来た。いくら警備厳重と言っても猫には通じないよ」
「そうか、、しかし鍋猫はバカチコの手下だったはず、良く言う事を聞いたな」
「鍋猫は節操も、貞操も無いめっそうもない奴、マタタビかけた鳥肉やったらイチコロさ。今やあちきの言う事は何でも聞くよ」
「そうか、お前の子分になったって訳か。おう、そうだ、途中越後屋に寄ってぶーたろうを連れて行こう、或怪蛇の話は奴が一番詳しい」
「鍋猫を行かせたよ。赤坂で待ち合わせた」
「ん〜っ、こいつ急に利口になりやがった。。おめぇ本当にみかか?」

「へへーん、昼間のみかはチョット違う。酒さえ飲まなきゃマジなんだよ!」
あいちゃん弁当。幇間@エイズロー、髪結いの亭主@びしばしがたむろしている。
「毛、恐かったわね。あの時あいちゃん何処にいたの?」
「仕込みが終わってここにいたの。浅草の方から黒い煙りが上がって何だろうって見てたら、大きな凧が飛んで来て、、、恐かったわ」
「俺も半蔵門のやつは見たよ。寺子屋の運動会があるんで毎日早足歩き(じょぎんぐ)をしてるんだ。その途中見附の堀端で気付いた」
「毛、あの事件以来お座敷も減っちゃって、幇間商売も上がったりだワ」
「今度は何が起きるんだろ。恐いわ。越後屋さんも銭禿の親分も今頃大変なんでしょうね」
「そこよ、そうそこあいちゃん。エイちゃん達も銭禿に呼ばれて『話簡単』に行ったんだけどその後何にも言って来ないワ。私燃えてるのに何もする事が無い」
「僕はその方が良い。身体弱いもん」
「何言っての、びしばし。越後屋ばっかり活躍してさ。エイちゃん達ってよく出演するんだけど、どうでもいい場面であほばっかりやらされて。。悔しいワ」
「エイちゃん!まっ毛ないで」
「あいちゃん!禿増してくれて有難う。ところであいちゃん、それ何してるの?」
「味見」
「どうだ、鉄仮面の奴来てるか?」
溜池のほとり、ミカが柳に登って辺りを窺っている。
「いるよ、一人で懐手してキョロキョロしてる。おーい!鉄仮面!こっちだこっちだ。愛するそにぃはこっちだよ」
「んっ!?どこだ!?」
「三本柳のてっぺんだよ。ほら手を振ってるのが分らないかい」
「おう!今そちらへ行く」
「鉄仮面殿、くれぐれも妙な考えをお持ちにならんよう。猫が大事ならな」
「分かっておる。そにぃは拙者の命じゃ。返してくれるものなら何でも言う事を聞く」
「ふーん、ミカの言う通りだな。お猫様様か」
頭巾を被った鉄仮面が柳の下にやって来た。
「そにぃを返してくれ、そにぃ!そにぃちゃん!どこだ!?」
『みゃん!』
「そ、そにぃ!?」後ろで猫の声、鉄仮面振り返るってぇと。。「にゃん、越後屋さんを連れて来たにゃん」鍋猫が越後屋と立っていた。
「な、なんじゃ、おまえは。にゃん、にゃんと気持ち悪いやつ!そにぃはどこだ!そにぃを返せ!」
「そにぃ、そにぃとうるさい奴だ。俺達が何者かとか、要求は何かとか聞けよ。話が進まん!」
「そ、そにぃは無事なのか!?」
「まだ言ってやがる。。ミカ、見せてやれ」
あいよ、ほれそにぃはこの袋の中、元気に暴れてるぜ」
「返せ、そにぃを返せ!!」鉄仮面はミカのぶら下げた袋にぴょんぴょん飛びつこうとした。柳の下のカエル?
「いい歳したおっさんが情けねぇ。まずは俺達の話を聞きやがれ!天下の筆頭家老が見苦しい!」
「、、ん、面目ない。取り乱してしもうた。お主らは何者じゃ。拙者を老中と知っての狼藉だな」
「無論!筆頭家老、鉄仮面殿とお話ししたくお出まし願った。御家老、『密書隠歩渋る』を御存知であろう」
「うむ、将軍様直々の勅書、闇のお庭番に発せられると聞く」
「その密書が我々に発せられた。」
「我々!?見るところ町人のようだが、、」
「我こそが闇のお庭番『必殺隠歩しごき人』のカシラ、へるぺす@あきらちゃんだ!」
「な、何しごき人のカシラだと!?そのカシラが拙者に何の用だ」
「発せられた密書にはお主の野望を打ち破れ、とあった」
「拙者の野望とな、、ハハハ、片腹痛いわ!一体何の事だ」
「憂国の士を気取り攘夷論『義務列島計画』を隠れ蓑に、台場建設計画の裏で不法に土地を占有、金儲けを企ててんだろう!全てお見通しだ!」
「な、何を根拠にそのような、、」
「そこ迄しらを切るなら教えてやろう。てめーは砲台建造を見越して江戸湾に浮かぶ島々を勝手に登記、そこに手っ取り早く建物立てて、いざ砲台建設となった時、法外な立退料を懐に入れようと企んだ」
「な、何をバカな、、」
「鉄仮面殿、拙者は越後屋ぶーたろうと申す者。御老中は江戸湾に女郎屋を開こうとなすった。いずれは取り壊す建物、女郎屋ならば女と蒲団さえあれば手っ取り早く開業出来る。お代官黒切札様の側女集めをしておった拙者に便乗して、女をかどわかした。。もーっ、ずるいんっだから!」
「何を証拠に、、言い掛かりは止せ!」
「にゃん!証拠はおいらだよ。おいらはバカチコの子分、鉄仮面とバカチコが逢っていたのも知ってるし、女をかどわかすお先棒も担いだよ、にゃん!」
「こ、このちんぴらが!せ、拙者は女等かどわかしてはおらん!」
「この後に及んでもまだそんな事を、、おい!鮫金!」
「・・」
「な、なんだこいつは!?」
「・・俺の顔を忘れたのか、、あんなにきれいに庭を作ってやったのに」
「庭?あっ、お前は植木屋!!」
「・・そうだよ。俺はあんたに気に入られて仲間にへぇった植木屋@鮫金だ」
「鉄仮面殿、鮫金、実はお庭番でな、我等の仲間よ。おめぇの動きを調べる為にこのあきらちゃんが忍ばせた」
「むっ!この植木屋、ぼーっとしてるただのでくの坊と思ったが、、、」
「観念しろ!鉄仮面!おめぇの企みは全てお見通しだ!」
「御老中、幕府で開国、鎖国と言い争いをしている時ではありませんぜ。同国人として恥じ入るばかりだがあの連続無差別攻撃は中国匪賊、瓶裸伝と或怪蛇の仕業、一刻も早く力合わせて奴等の侵攻を食い止めなければ」
「越後屋、、同国人とな。ふん、お前も密入国者か!とうとうそのような者がこの大江戸ででかいツラをして商いをする迄になったか!」
「顔がでかいのは生まれつきだ。別に中国人だからではない」
「おい、あきらちゃんとやら、聞いたか。あの連続蛮行は中国人の仕業だそうだ。拙者はかような事態を恐れて『義務列島計画』を上申、この美しい国を守る為より一層の攘夷を推進しようとしているのだ。その拙者を犯罪人呼ばわりするとは何たる事!捕らえるべきはこの越後屋、こやつも一味に違いない!」

鉄仮面はそういきり立つと頭巾を投げ捨てた。
「そうだ!そうに違いない!あきらちゃん、こやつをひっとらえろ、こやつをしごけ!こやつこそが大凧事件の首謀だ!拙者と共に将軍様の元へ引きずり出してやろう、お誉めの言葉、褒美、たんともらえるぞ。ほれどうした、捉えんか、おい植木屋このデブを捕まえろ、柳の上のねぇちゃんぐずぐずするな!」
「おいおい、そう興奮するねぇ、落ち着くんだ」
「こら、鉄仮面のおっさん!大きな声出すなって、袋の中のそにぃが暴れてあちきのか弱い腕じゃ持ちきれなくなるよ」
袋を抱えてみかが木から降りた。
「おお、そにぃちゃん!こら!その袋をよこせ!そにぃを返せ」
鉄仮面、無理矢理袋を奪おうとする。

「ダメだよ、やめてくれ、手を離せ、このおやじ!」
「よさねぇか、鉄仮面!落ち着くんだ!」
「そ、そにぃ!よこせ、そにぃちゃんを返せ!」
「やめろよ、袋が破れる!あぁ〜っ!」
『びりっ!』
「あっ、破けた!」
そにぃが飛び出した!
「そ、そにぃ!そにぃ!どこへ行く!?パパだよ、おいで」
『ふぅ〜っ!』
そにぃは毛を逆立てると一声皆を威嚇!勢いよく池に向かって走り出した!
「ま、待てそにぃ!パパを忘れたのか」「まてーっ!」
追いかける鉄仮面、みか。
「へっ、パパだってやんの。」
「こら越後屋、笑ってねぇでてめぇも追いかけるんだ。そにぃは大事な人、、いや猫質だ!鮫金!さめ、、おまえはいいや走れねぇもんな」
池の周り、そにぃを先頭にみか、鉄仮面、越後屋が走る!
「ダメだにゃん、猫は追っかけちゃ、逃げるばっかりにゃん。鍋猫に任せるにゃん」
「おめぇそにぃを捕まえられるのか?」
「簡単にゃん!一声鳴けば飛んでくるにゃん」
「よし、頼む」
「そにぃ!『みゃおーう』」
その頃銭禿の家の前、、
「ぜぇい、ぜぇい、はぁはぁ〜か、かひら〜!お、おかみは〜ん!た、ただ今けぇりやひた〜!はぁ、はぁ〜」
「おや、誰か来たのかしら?なんか声がした、、だーれ?お入り!」
「はぁ、はぁ〜ひゃぁ、ぜぇ〜、も、もう一歩も動けまひぇん、、」
おかみさん、戸を開けるってーと、、足元に飛脚@定吉が倒れていた!
「じ、じょーきち!帰ってきたんだね!遅いから心配してたんだよ!しっかりおし!」
「あっ、おかみひゃん、た、ただい、、」定吉は気を失った。

「ほら、定吉!これを飲むんだよ」おかみさんは定吉の頭を抱え上げ麦酒を口に流し込んだ。
「んぐっ、んぐっ、、ぷぅぁーっ!うめーぇー。おかみさん、佃島三重苦競争の終点を思い出しますねー」
「そうだね、あの時私は麦酒を持って待ってたんだよね。」
「うまかったす。今まで飲んだ麦酒で一番うまかった。。」
「まぁ無事帰ってきてよかった。大変だったんだね、顔真っ黒だよ」
「おかみさんこそ黒いっすよ。どうしたんですいったい」
「あたしゃサンマ焼いてたから、、さ、落ち着いたろ、中に入って話を聞かせとくれ」
『みゃ〜おう』鍋猫が一声鳴くと、なんとそにぃが戻ってきた。
『にゃん、みゃ〜ん、にゃにゃにゃ』そにぃに話しかける?鍋猫。そにぃは鍋猫の肩の上に乗った。
「おう、でかした。人間何か一つは取り柄があるもんだ。鉄仮面殿、動くなよ、動いたらそにぃーをまた逃がすぞ」
「むっ、こやつ猫使いか!?不気味な奴め」
「御家老、確かに越後屋は中国人だ。わがままでスケーベーで酔っぱらったら手におえん奴だ。しかし瓶裸伝とは全く違う考えの持ち主、同胞の事のように日本人、日本の事を考えている」
「そんなことがあろうはずもない!毛唐は毛唐じゃ。拙者は日本男児、海の外のものなど、何も受け付けない!」
「やい!鉄仮面!黙って聞いてりゃ勝手なこと言って。鍋猫の肩にいるそにぃ、あちきには判るよ。日本猫じゃないじゃないか!」
「ん?何を!!」
「どういうこったみか?」
「あきらちゃん、この子はね『米国産短毛猫』といって海の向こうの猫だよ。日本猫なんかじゃない、鉄仮面!そにぃだって毛唐じゃないか!」
「そ、そにぃは、、」
「どうした鉄仮面!?ご禁制品を自ら持って、何が攘夷だ!」
「そうだよ、自分じゃ『米国産短毛猫』大事にして、毛唐は嫌いはないでしょ。そにぃも越後屋も同じ輸入品」
「そ、そにぃは可愛いがこのおっさんは可愛くない。。」
「まぁ鉄仮面殿,虚心坦懐に越後屋の話を聞いてくれ。攘夷だ開国だ、女郎屋だお台場だと騒いでる場合じゃねぇぜ」
「・・・」
「さぁ越後屋、話を、、どうした。うつむいて何をすねてる」
「だって、、こんな狸みたいな猫とあっしを一緒にするなんて、、許せない。。」
「そにぃちゃんをた、たぬきじゃと!狸の置物が何を言う!」

「まっ!狸の置物!?失礼な、、」
「まぁ、まぁ二人とも落ち着いて。。さ、越後屋、瓶裸伝と或怪蛇の野望とお主の夢を御家老に聞いて頂くんだ。こんな機会二度とはないぞ」
「へ、へい。御家老、瓶裸伝とは過激中国匪賊、或怪蛇の親玉。こやつは、、、」
銭禿(あきらちゃん)の家。
「で、定吉。駕篭かきの親分@ガタコとは会えたんかい」
「へい、或怪蛇の動きをガタコの広い顔で探らせろって言う頭の命、あっしは秩父の山まですっ飛んでいきやした。すぐガタコに会えるにゃ会えたんですが、そのとたん、やっこさん、産気づきやがって、、」

「そうかい、無事産まれたんだね。良かった」
「へぇ、でっけぇ男の子でした。そんなこんなでなかなか話が出来ねぇで遅くなりやした」
「うん。それで、何か掴めたのかい」
「、、、!そーだ、思い出した、てぇへんですよ!いやね、ガタコが集めた情報によると、、、」
「て、てーへんだ!てーへんだ!」
「何だい又お前かい権造、騒々しい」
「てーへんです、おかみさん!あっ定吉!帰ってきたんだ」
「ああ、たった今な」
「権造、それで何が大変なんだい?」
「げんなりさん、げんなりさん頭がおかしくなった!」
「なんだって、げんなりさんがおかしくなった!?」
「そ、そうなんですよ、おかみさん」
「おうっ!けぇったぞ」
「あ、かしら、定吉、ただ今けぇってまいりやした。てーへんな事になってやして、」
「あら、あんた、どうだった、鉄仮面」
「て、てーへんだ、親分!」
「ちょ、ちょっと待て、いっぺんに喋るな。順番を決めよう、まず定吉、なにがてーへんなんだ?」
「へい、ガタコの情報によると或怪蛇に先導された何百という中国人が秩父の山に潜んでいる、そいつらが間もなく闇に紛れて江戸に向かうと、、、」
「何、秩父の山に、、そうかもうそこまで来てるってぇのか!」
「どうも大晦日に向かって何かたくらんでいるようで、、」
「晦日っていやぁもう10日程しかねぇ。。権造、おめぇのてーへんは何だ」
「へい、げんなりさんの様子がおかしいんでさぁ」
「げんなりさんが?たしか今頃は或怪蛇撃退の策を練ってるはずだが」
「それが変なんですよ。げんなりさん、反物屋の南日堂の後家さんちに入りびたりで」
「何、後家さん@きゃろるんとこに入り浸り!?」
「そうでさぁ、おまけにあっしは見ちゃったんですよ、凄いとこを、、」
「凄い床?!」
「違う定吉、凄いところ」
「何なんだよ、もったいぶらずに早く言え」
「げんなりさんが『やらせてくれ』って言いながら南日堂のきゃろるに迫ったんです」
「まさか、あのげんなりさんが『やらせてくれ』とは、、」
「いや、この目ではっきり見やしたし、この耳で聞きやした『やらせてくれ』ってはっきりと」
「ん〜そういやぁこないだ『話簡単』で越後屋が女口説いてるのを羨ましそうに見てたなぁ。。俺もあんな風にオヤジになりたいって呟いてたっけ」
「そんなことよりお前さん、鉄仮面とは会ったのかい?」
「あぁ、猫逢いたさにのこのこ来たよ」
「で、首尾は?」
「うまくいった。越後屋、いや周山海の話を聞いて銭儲けどころじゃねぇって事が解ったみたいだ。早速遊郭は取り壊して台場建設の為幕府に土地を献上すると言っていた。国防は国防として進めるが、穏健異人達のためには特区を作る、つまり中華街建設にも協力するってこった」
「へぇー、変われば変わるもんだね」
「お猫様々だ。おっとこうしちゃいられねぇ、げんなりさんとこへ行って来るぜ」
げんなりの庵。げんなりが一心不乱に図面を引いている。
「げんなりさんいるのかい?俺だよ、銭禿だ!返事がねぇな、又後家通いか?おい、へぇるよ。。なんだい、いるんじゃねぇか、げんなりさん!銭禿が来たよ!」
「お、これはかしら、夢中になっておって気付かなかった」
「なにしてんです?」
「うーむ、或怪蛇退治の秘密兵器を考えておった」
「いい知恵は出ましたかい?」
「出たよ、出たとも。これがうまく飛べばすっ飛んで逃げていく」
「そうか、安心した、いやあんたがおかしくなったって話を聞いたもんだから」
「わしがおかしくなった?!」
「いや、反物屋の後家さんとこに入り浸りだってな」
「ドキッ!な、何でそんな話が、、」
「権造が見たって言うんだよ」
「行くには行ったが入り浸りとは、、」
「『やらせてくれ』って迫ったらしいじゃねぇか」
「、、、権造!あの出歯亀やろうが、、イヤな、今度のわしの発明品には膨大な量の反物が必要なんだ。時間もないし通常の方法では手当がつかん。そこで南日堂のおかみさんに直談判に通っていたんじゃ。訳を話して『この仕事、わしにやらせてくれ』とな」
「下心は?」
「、、少し。。何を言わせるんじゃ、必死なんだぞ」
「解った、解った、で或怪蛇退治の秘策とは」
「わしはあれから色々な文献を読み漁った。そうさなぁ二百冊は読んだかな」
「二百とは!?」
「うむ、速読法を会得しとるからな。そもそも速読法というものは、、」
「ちょっと待った、その話は又にしよう。秘策を聞かせてくれ」
「おうそうじゃった、あのな、わしの調べによると連中は龍に異常な畏れを抱いておる」
「龍?」
「奴らにとって龍は伝説の神の使い、めでたいものでもあるが恐ろしい物でもあるる。そこでわしは考えた。この龍が奴らの頭上を舞ったらどうなるかとな」
「龍が舞う?」
「神の使いといわれ数々の逸話、絵も残されてはいるが、本物を見たものは誰もいない。 そんな物が目の前に現れ大空で舞ったら腰を抜かすじゃろ」
「うむ、そりゃそうだ。蜂の巣を突いたような騒ぎになるだろうな」
「ふっふっ、そうだろ。だからわしは龍を大空に舞わせる」
「、、どうやって」
「むこうが凧で来たからこっちも凧で行く。大凧を上げそれに龍の吹き流しを付けてな、空を舞わせるんじゃ」
「大凧か、うまくいくかな?」
「風に乗れば大いに舞うだろう。しかし乗せてからが問題じゃ」
「と言うと?」
「皆で引っ張れば大凧は揚がる。しかし龍を連中の頭上に向かわせるには、、」
「向かわせるには、、?」
「少なくとも一人の人間が龍の吹き流しに乗って方向舵を操作せねばならぬ」
「、、、」
「龍は大空を舞って、いずれ勢いを失いいずこかに墜落する。」
「予測は?」
「出来ぬ。風に乗っているときは方向舵で東西南北何処へでも飛べるが、失速したら、、、海に落ちるか、山に落ちるか、、まぁ深い森にでも落ちれば助からん事もないが」
「う〜ん。」
「大勢の輩を一気に追いやるにはこれしか方法はない」
「その操縦ってぇのは難しいのか」
「いや、それほどではない」
「、、よしげんなりさん、すぐに飛ばそう、何せ敵はもう秩父の山まで迫っている。それで反物の手配は出来たのか」
「ああ、きゃろるがようやく首を縦に振って、今南日堂の番頭きゃすたー参る度の助や○の丞が手配をしているところだ。図面も今出来た、後は龍を作る器用な縫い手と凧を揚げる力持ち、そして、、、龍の乗り手、人手だけだ」
「任せておけ。早速動こう!」
「乗り手は?命を賭けることになるぞ、誰が乗る!?」
「俺が乗るさ」
「バカ言うんじゃない、お前さんには無理だ」
「何を!だてにかしらを張ってる訳じゃねぇ」
「操縦にはな、腕っ節が必要だ、お前みたいに『腕がいてぇ、腰がいてぇ』とぐちばっかたれてるへたれには無理じゃ」
「へたれだと!ばか野郎、龍には俺が乗る」
「お前が乗って折角揚げた龍があさっての方へ行っちまったら大江戸はどうなる。」
「・・解った、今夜は『話簡単』の大納会。大勢集まってくる。そこで人手を集めよう」
その夜、『話簡単』
「みんなよく来てくれた、今夜は『話簡単』の大納会、ゆっくり飲んでくれ、、といきたいところだが、今お江戸は大騒ぎ。この晦日にも或怪蛇の無差別多発暴動が起きるという噂もある。実はげんなりさんがその或怪蛇退治の妙案を練ってくれた。皆で力合わせてこのお江戸を守ろうじゃねぇか」
「待ってました、やっとわたしの出番が来たワ」
「・・エイズロー、悪いがお前に頼むことはない」
「そ、そんなひどいワ」
「ぼ、僕は何をすればいいのかな。前に僕にしかできない事があるって言われたけど」
「びしばし、おめぇには女に化けてもらって鉄仮面の作る遊郭に潜んでもらおうと思ったがその必要はなくなった。そうだ、おめぇとエイズロー、あいちゃんには炊き出しをしてもらおう。仕事は徹夜になるし、飯食う時間も惜しい」
「も〜、銭禿ったら、散々人にバカやらせて最後も炊き出し?あんまりだワ。」
「えいちゃん、炊き出しも大切な仕事、がんばりましょ」
「・・あいちゃんに言われると弱いワ」
「のりたまにも頼みましょう、あの子のおむすびは百人力よ」
「かしら、飯の話はいいからその妙案ってを」
「おう、定吉、そうだったな。げんなりさんの考えはこうだ、、、」
銭禿の話に皆神妙に聞き入った。
「、、っていうことだ」
「本当にそんなので奴らが逃げるんですかい?」
「ゴリ兵がそう思うのも無理はない。俺も半信半疑だ。が今となってはこれしかない」
「私達ちゅーこくじん、龍大切なお守り。でもほんとに目の前に現れたら吃驚するアルよ。すっ飛んで逃げるアルよ」
「な、周山海もああ言うしここは一つげんなりさんに賭けてみようじゃねぇか。万が一失敗したら黒切り札、鉄仮面率いる幕府の部隊に任せるしかない」
「冗談じゃねぇ、このお江戸を侍なんかにゃ任せておけねぇ!俺たち町人の手で或怪蛇をやっつけよう」
「よく言った!混抜刀@さぶ、おめぇは新顔だがどこか見所があるにちげぇねと思ってたよ。皆も力を貸してくれるな!?」
「おーうっ」「あたぼーよ」「みゃー」「どすこい!」「あちきもやるよ」
「鮫金、てめぇはどうなんでぇ」
「・・やるさ」
「よし早速役割を決めよう、まず定吉、おめぇは手先が器用だからげんなりさんとこいって図面見ながら大凧に大龍作りだ。段取り決めたら皆を呼びに来い」
「合点だ!」
「さて問題は誰が龍に乗るかだ。命がけになるぞ」
「銭禿、それ私乗るある。同胞が起こした問題、日本人任せる訳いかない」
「越後屋、いや周山海、そうはいかねぇ。お前には中華街建設の仕事が残っているだろ。第一龍には、、」
「龍には?」
「デブは乗れない」
「もー、銭禿のいけず!」
「俺が乗る!」
「混抜刀!?」
「俺はこう見えても元野武士として戦闘体験がある」
「穴掘りばかりじゃなかったのかい」
「りえママ、そりゃぁないだろ。それに俺空にあこがれがある。空から気持ちよく落ちる夢をよく見るんだ」
「うーむ、混抜刀には予知能力があるんじゃないか」
「親分!龍には自分が乗ります」
「ゴリ兵!」
「混抜刀には妻子があります。自分が行くであります。自分は頭も固いし何処に落ちても大丈夫であります。万が一の時は、、、」
「万が一の時は、、?」
「ホタルになって戻ってきます!」
「ゴリ兵、おめぇ、映画の見過ぎだ」
「?」
「・・そこまで言うのなら、、ゴリ兵、乗ってくれるか」
「喜んで!江戸のため、中華街のため、俺は行きます!」
「ゴリ兵!中華街のため!?うううっ、俺は今まで誤解していた。変な奴と思ってたがいい奴なんだ」
弐百年前、大晦日。荒川河川敷に大勢の人が集まっている。
「親分、それにしてもこんなにでかい物をよくぞ三日で作ったもんですねぇ」
「そうさなぁ権造、『変人長屋』の連中が力を合わせりゃなんだって出来る。普段はバカでも本当に素晴らしい野郎、女郎揃いだぜ。そろそろ凧を揚げるか。げんなりさん!首尾はどうでぇ?」
「ああ、ごらんの通りだ、いつでもいけるよ」
「親分!行って参りやす」
「おう、ゴリ兵!頼んだぞ」
「一つだけ気がかりなことが、、」
「なんでぇ、言ってみな」
「行方不明のおかめの事が、、」
「任せとけ、きっと探し出してやる」
「大丈夫、おかめの面倒はちゃんとあっしがみるから」
「え、越後屋、、親分やっぱり行くの止めようかな」
「何を今更言ってるんだ、おめぇが無事けえるまでおかみさんが守ってくれるよ」
「何であっしだとダメなんだよ。奴の兄貴分なんだぞ」
「よさねぇか越後屋、話がややこしくなる、さぁいい風が吹いてきた、頼んだぞ」
「風に乗ったと感じたら凧を切り離せ、後は舵を取って北へ向かうんだ」
「合点、げんなりさん」
「或怪蛇はもうその山の向こうまで来ている、存分に舞ってやれ!」
「さぁ、混抜刀、凧を揚げるんだ」
「よしきた、みんな頼むぞ、せーの!!」
先頭の混抜刀のかけ声で皆大凧に固く結ばれた綱を引き始めた。しかし大きな凧は微動だにしない。
「おらおら、もっと力を入れねぇかい、せーの!!」
皆の顔が見る見る赤くなっていく。定吉、鮫金、越後屋、権造、権之助、藪数、錯乱坊、鍋猫、しゅんさん、ハマの丞、粘土小僧、エイズロー、びしばし、ペェ助、大足、参る度の助、○の丞、ケンちゃん、薄着、泥ん波、バカチコ、トダカッチ、ナカハラ、吉次郎、氷屋のおやじ、、、。
必死の形相で引っ張るが、、「だらしねぇな、うごきゃあしねぇ。だから言ったろ、あたいにも引かせろって」ドスコイが綱にとりつく。「あたしにもやらせろ」りえママが、「あちきも」みかが、あいちゃんが、そして河原にいた女皆が綱を引き始めた。おかみさん、はっぱ、牡軽、小雪、きゃろる、お桂、のりたま、アミゴン、かめ、手稲、おまQ、たーちゃん、たかいち、よしこ、いつ山から下りてきたのかガタコ、、そしていつやら黒切り札、鉄仮面、ムコ殿らまでが綱を引き始めた。一人いっちゃんは見物していた。。
ようやく大凧が動き始めた。そうなると勢いがついて一気に大凧は大空に舞い上がった。
続いて龍が昇る、まるで鯉が滝を昇るように。。。
「うおーっ、やったぞ、龍が昇っていく!」
「見事だ!げんなりさん、あんたの図面は完璧だったな」
「いや、皆の力だ、みんなの力がああして龍に命を吹き込んだ」
ゴリ兵は巧みに龍を操った。まさに空飛ぶ@ゴリラ!龍は大きく弧を描くと北の空へ飛んでいった。弐百年前、大晦日のことだった。
「号外!号外だよ!空飛ぶ@ゴリ兵、龍となり天に昇る!秩父の山から天吹く@ダイスケの特ダネだ!或怪蛇退治の一部始終が載ってるよ!号外だ!号外だ!、、」
瓦版屋@ナンちゃんの甲高い声が長屋に響く。
ゴリ兵が空に舞い一日がたった。そう百九拾九年前の元旦。銭禿の家。
「あんなにうまくいくとはなぁ。山に残ったダイスケの話じゃ蜘蛛の子散らすように逃げてったと、、龍はそれを追う様に飛んでいったらしい」
「まぁあんな張りぼてでねぇ、よくもまぁ」
「張りぼてって事はねぇだろう、皆の魂がこもってるんだ」
「それにしてもこんな良い正月迎えられるとは思わなかった」
「そうさなぁ、変人長屋の皆のおかげだ」
「店で見てるとこんなバカばっかりと思うけど、いざとなりゃ頼りになるねぇ」
「ああ、みんな心が暖かい。感謝しなきゃ。」
「そうだね。今年は忙しくって賀状も出せなかったけど、これが新年のご挨拶だね」
「何人気付くかわからねぇが、まそういうことだな。『謹賀新年!今年もよろしくな!』ってとこか」
「そうだ、四日の新年会には皆に雑煮をふるまおうかね」
「そりゃぁいい、皆集まってくれるといいな」
おかめは夢を見ていた。熱々のお餅をほおばる夢を。。夢を見ながら「どうせ夢なんだ。何回見たろ、食べ物の夢、、あの日越後屋と別れた後すぐ帰れば良かった。んもーっ、越後屋ったら自分がおなか一杯になったら『眠い!俺はもう帰る』なんて言うもんだから、、『だったら先かえんなよ』って言ったら本当に帰りやがった。食べ足りなかった私は肉まんどっさり買って、隅田川に浮かぶ小舟で食べたっけ。おなかが一杯になったら眠くなって、、越後屋みたい、嫌だわ、、眠りこけてるうちに船が流されて、、」等と考えていた。
空に舞って三回目の朝が来た。何度か眠りに落ちたが龍はまだ空を飛んでいた。「ふふ、あの驚き様ったら、、あの様子じゃ命からがら日本を逃げ出すだろう。さすがげんなりだ。しかしこうやって龍にしがみついてるのにも疲れたな。。落っこちたらどうなるんだろう。。いくら石頭の俺だってお陀仏かな。あー腹減った。腰にぶら下げたバナナもくっちまったし、、あー死ぬ前にもう一回おかめの弁当が食いたかった。気が強くって生意気な奴だったけど、もっと大事にしとくんだった。。」ゴリ兵は力つき、龍から落ちた。
『ばっしゃーん!!』凄い波しぶきを浴びておかめは船から放り出された。必死になっておかめは船に掴まった。
「何、何が落ちてきたの!?」
「っぷゎー!!」
水の中から出てきたのは、、
「あっ!ゴリ兵!?どうしたの?助けに来てくれたの!」
「・・おかめ!あ〜おめぇもあの世に行ってたのか」
「何いってんだい!ばか!」
「え?ここは三途の川、、」
「違うよ!あんたは空から降ってきたんだよ」
「何!?おれはおめぇの側におっこちたって訳か」
「あっ島が見える、『めんそーれあまみ』って書いてあるわ!助かった」
百九拾九年前新年四日、『話簡単』の新年会。
「大納会はすっかり湿っぽくなっちまった。今夜はとことん楽しんでくれ!」
「おう、言われなくたって飲むぜ今夜は!」
「何を今更、毎晩飲んでいるくせに」
「あちきも飲ませてもらうよ、酒乱になってやる!」
「これでゴリ兵とおかめさえいればねぇ」
「なにあいつらの事だ、ひょっこり顔を出すさ」
『ごめん下さい』
「どうぞおはいんなせぇ」
『あのー雑誌で見たんですが、、、』
弐百年前の隠れ酒場 完